電子流とコイルによる磁極の関係について

電子の流れ方向とコイルが作る磁極の関係について、方位磁針を使った実験によって確かめてみました。

従来の仮想電流と磁極の関係については、多数の書籍などでも紹介されていると思います。ここでは電子の流れ方向と、それによってコイルに発生する磁極の関係について、市販の方位磁針を利用した簡単な実験によって確かめてみます。

まず、使用する方位磁針は、以下のようなものです。

市販の方位磁針

この写真では、磁針の赤い部分が北(十二支では子の方角)を指すように向きをセットしています。この状態では言うまでもなく、磁針の白い部分が南(十二支では午の方角)を指しています。

ここで、方位磁針の赤い部分が北を指すということについて考えてみたいと思います。これは、地球の北極(North Pole)付近が、磁極のS極であることから、方位磁針の赤い部分は、磁極のN極にあたるといえます。また、方位磁針の白い部分が南を指すということは、地球の南極(South Pole)付近が、磁極のN極にあたるといえます。

間違いやすいのは、North Poleだから北極がN極ということではなく、方位磁針の赤い部分がNorth Poleを指していることは、この部分が、磁極のN極にあたるということを理解しておく必要があると思います。反対に方位磁針の白い部分がSouth Poleを指していることにより、この部分が、磁極のS極にあたると考えられます。  

ここで、方位磁針の磁極について、簡単な実験によって極性を確かめてみたいと思います。磁極の同極同士(N極とN極、S極とS極)は反発し合い、異極同士(N極とS極、S極とN極)は引き合うことを利用して、方位磁針の東(十二支では卯の方角)に磁石のN極とS極を近づけてみます。

S極を近づけた場合

このように、磁石のS極を近づけた場合には、方位磁針の赤い部分、すなわちN極が東を指します。

N極を近づけた場合

また、磁石のN極を近づけた場合には、方位磁針の白い部分、すなわちS極が東を指します。

それでは、方位磁針の準備ができたところで、コイルを用意します。これは市販のエナメル線を2~3メートル用意して、これを透明なプラスチックの円筒に巻き付けます。そして、コイルの両端から出ている線を単3電池用の電池ボックスと接続しました。このコイルを方位磁針の東側に配置します。

方位磁針とコイルの関係1(電池を外した状態)

まだ、この状態ではコイルには電子の流れがありませんので、方位磁針は全く動きません。次に、この実験装置に電池をつないでみます。

方位磁針とコイルの関係1(電池をつないだ状態)

電池をつなぐと方位磁針の赤い部分が東側に振れますので、コイルの向かって左側にS極が生じたことが分かります。ここで電子流は、電池のマイナス側からプラス側に流れることに注意します。

こんどは、電池の向きを反対にするために電池ボックスを逆につなぎ替えてみます。

方位磁針とコイルの関係2(電池を外した状態)

まだ、この状態ではコイルには電子の流れがありませんので、方位磁針はやはり元の状態で動きません。次に電池をつないでみます。

方位磁針とコイルの関係2(電池をつないだ状態)

電池をつなぐと方位磁針の白い部分が東側に振れますので、コイルの向かって左側にN極が生じたことが分かります。ここでも電子流は、電池のマイナス側からプラス側に流れることに注意します。

従来の仮想電流とコイルのつくる磁極の関係は、右手を中心に考えていました。しかし、電子流とコイルのつくる磁極の関係は、左手を中心に考えたらよいのではないでしょうか。すなわち、左手の親指を伸ばして、これを磁極のN極とします。人指し指から子指までを握り方向に少し丸めて、これをコイル中の電子流の向きと考えればよいことが分かります。

多数の電磁気学関連の文献にみらるように、磁石の外部でN極からS極に向かう磁力の流れがあるのかどうかは、今のところ実験的に確かめたわけではありませんので、よく分かりません。電子流によってつくられる磁界の統一的な向きについては、今後国際的な議論が必要になるのかもしれません。 可能性としては、下記(a)(b)(c)の3タイプが考えられます。北半球に住んでいる人にとっては、方位磁針のNが北に向く力が大きいため、N(南極)からS(北極)という磁力線の方向を定義していると考えられますが、南半球に住んでいる人にとっては、方位磁針のS極が南に向く力の方が大きいと考えられます。 現在の仮想電流を正方向とする右ねじの法則は、NからSを磁力線の正方向と考えないと成り立たないものですが、電子流を正方向とする場合にも、同じように勝手に北半球に住む人の理論に基づいてやっていいのかということは、議論の余地があるのではないでしょうか。

(a)

(b)

(c)

無限長ソレノイドについて(追記)

今回の実験は、有限長のソレノイドを使って電子の動く方向と磁極(静磁界)の関係についてを考察するものでした。ここでコイル両端の影響が無視できるような長いソレノイドについてよく知られている公式に

H=nI

という式があります。ここでHを磁界、nを単位長さあたりのコイルの巻き数、Iを電子流の大きさとします。つまり磁界の大きさはコイルの巻き数と、コイルに流れる電子流の大きさに比例するというものです。(電子流は仮想電流の向きと反対方向になりますが、ここでは簡単のため、流れの向き/符号については考えないことにします) なるほど、電池を使って直流の電子流による磁界の発生現象では、この式の正当性も証明されそうですが、これを変形してI=にしてみたらどうでしょうか。

(?)I=

──

一応(?)ハテナマークを付けておきましが、直流の電子流を発生させるためには、コイルと静磁界があればよいという意味になるのでしょうが、実際には静磁界ではコイルに電子を動かす力を発生させることはできないようです。

やはりコイル内の自由電子を動かす力となる電引力(V)を発生させる式は、

V=L・

dI

──

dt

(L:コイルのインダクタンス dI:微少変位電子流 dt:微少時間)となるのでしょう。この一例として、市販の手動LEDライトがあります。これは下図の回路のように内部に磁石とコイルを組み合わせた交流の発電機を利用して、LEDライト2個を点灯するようにしてあります。(LEDの回路記号は仮想電流方向を正としてありますので、あえてここでは回路記号は付けていません)

ライトを握ると発電機が回って、電子を動かす力をつくり出し、LEDを下記のように点灯させます。

(注意)実験に鉄芯コイルを使用すると、より強い磁力が得られるものと考えられますが、鉄は磁化されやすいので、いったん磁極がN極かS極か、どちらかに磁化されますと、容易に元に戻りにくいことが挙げられます。そこで今回は、磁極の向きを調べるために、プラスチックの空芯コイルを使用しました。